名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)3026号 判決
一 いずれも成立について争いのない甲第一、二号証によれば、請求原因1項の事実が認められ、これに反する証拠はない。
また、前掲甲第一号証及び証人北折四郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証を総合すれば、本件発明の構成要件を請求原因2項のように分説することに合理性があると認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。
二 請求原因4項の事実は当事者間に争いがなく、これにいずれも成立について争いのない甲第五ないし七号証、被告の工事現場の写真であることに争いがない甲第四号証並びに証人北折四郎の証言及びこれによりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一ないし五号証を総合すると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
1 イ号工法は、昭和五八年五月ころまで、被告において採用されていた工法であり、関連会社が予め製造したプレキヤスト鉄筋コンクリート(略称PC板)を建築現場で組み立て、建物の外枠を構成するものである。
2 内部に鉄筋が配設されて強化されている右PC板は、別紙イ号図面に示すように、外周の四辺に各二箇所あて、概ね壁体厚の半分の深さまで台形状に陥没させた凹部を有し、そこに、壁体内部に配設された一対の変形く字型の鉄筋(隣接辺のそれと壁体内で直交している。)と溶着した添えプレートの接合片を設置していて、これらを業界では「セツチングベース」と称している。
また、隅部の柱体にも、前記接合片に対応する位置に、内部に配設された鉄筋と溶着した変形Ⅰ型の接合片を設置している。
3 イ号工法は、隣接するPC板の各接合片を連結片にて溶着、結合し、前記凹部にモルタルコンクリートを充填して壁を構成する方法であり、同様の作業を隅部、基礎部、天井部においても行うことにより、全体として極めて容易かつ確実に強固な鉄筋コンクリート製の建物外枠を形成することが可能となる。
4 したがつて、イ号工法は、工場パルプ廃棄物、ゴミ廃棄物又はこれに準ずる材質を用いた木質耐火壁の組込方法である本件発明と、まず基本的な目的において相違し、その関係で、請求原因2項(一)(4)、(二)(2)、(三)(1)及び(五)に分説された本件発明の構成要件を欠いている。
また、本件発明に係る木質耐火壁の外周が、所定の左側杆、右側杆及び上下杆により組成された方形枠によつて囲繞されているのに対し、イ号工法に係る前記PC板は、かかる構成を有しておらず、したがつて、請求原因2項(一)(1)、(一)(2)、(一)(3)及び(一)(4)に分説された構成要件を欠いている。
さらに、イ号工法は、基礎(土台)との結合方式及び隅部との結合方式において本件発明と異なつているから、請求原因2項(二)(1)、(三)(1)、(三)(2)及び(四)に分説された構成要件も具備していない。
三 右認定事実によると、イ号工法は本件発明の構成要件を殆ど充足しておらず、その権利範囲に属するものでないことは明らかと言うべきである。
この点について、原告は、鉄筋、鉄骨、鉄材のどれかを使用すること及び耐火壁の組込工法であることにおいて本件発明とイ号工法とは共通し、また、イ号工法は、帯板によつて二枚の耐火壁を結合するという本件発明の要部と同一の技術的思想に基づいているから、本件特許権に抵触するものであると主張する(原告の反論1、2項)。
しかしながら、特許請求の範囲には、原則として発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない(特許法三六条四項本文)から、その技術的範囲を判断するに際しても、特許請求の範囲に記載された事項(構成要件)が原則的な基準とされるべきものであり、その構成要件の一部でも充足しないものは当該発明の技術的範囲に属さないというべきものであることは当然である。
したがつて、本件発明との一部の類似点を理由として、イ号工法は本件特許権を侵害する旨の原告の主張は、全く独自の見解であり、到底、採用することができない。
四 よつて、その余について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(忌避の申立てに対する見解)
原告は、本件口頭弁論終結(昭和六二年一〇月二六日)後、その判決言渡期日の迫つた同年一二月一日に、当裁判所の裁判官三名に対し忌避の申立てをした。
しかし、当裁判所に顕著な右忌避申立ての理由及びこれに至る経緯(当裁判所は、本件の口頭弁論を終結するに際し、原告より、鑑定書の作成を依頼する予定であるから、それを証拠として提出する機会を与えてほしいとの希望が表明されたので、鑑定書が事実上追完された場合には、その内容如何により弁論を再開することがあることを告知したうえ、判決言渡期日を二か月先に指定したものであるところ、原告は、右鑑定書を提出することなく、本件忌避の申立てをなしたものである。)並びに原告を当事者とする他の多数の訴訟の進行状況等にかんがみると、右申立ては、本判決の言渡しを遷延することのみを目的としたものであつて忌避権の濫用に当ることが明らかであると解されるところ、民事訴訟法四二条は、忌避の申立てに伴う訴訟手続の原則的な停止を規定しているが、相手方当事者の迅速な裁判を受ける権利や訴訟手続の主体としての裁判所の責務を考慮すると、本件のような明らかに濫用に当る忌避の申立ての場合には、同条の適用がないものと解するのが相当である。
よつて、当裁判所は、訴訟手続を停止することなく、既に終結している口頭弁論の結果に基づいて、指定済みの期日に本判決を言い渡す次第である。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の権利者である。
(一)登録番号 第九九七五七四号
(二)発明の名称 工場パルプ廃棄物またはゴミ廃棄物などを用いた木質耐火壁組込工法
(三)出願日 昭和五〇年八月二一日
(四)出願公告日 昭和五四年一〇月五日
(五)登録日 昭和五五年五月二〇日
(中略)
2 本件発明は、次の構成要件からなる木質耐火壁組込工法である。
(一)(1) 外側向き軽みぞ形鋼の左側杆、
(2) 前後辺に夫々適宜間隔で複数枚の帯板の一端部を溶着せる外側向きリツプみぞ形鋼の右側杆及び
(3) 外側向きのハツト形鋼の上下杆で組成した方形枠によつて
(4) 外周が囲繞された工場パルプ廃棄物又はゴミ廃棄物を用いた木質耐火壁を、
(二)(1) その下杆を土台上面にアンカーボルト止めし、
(2) 順次隣接する各木質耐火壁を各帯板によつて夫々溶接結合して順次連接組込んで行き、
(三)(1) 隅部で直交する両木質耐火壁の左側杆を、
(2) 隅部に配した山形鋼の垂直な柱体を介して一体溶接結合させ、
(四) 上記隅部の外周にフレキシブルボード又はアルミ板、鉄板等に防水加工した山形板を設けて隅部を隠蔽するようにした。
(五) 上記のことを特徴とする工場パルプ廃棄物又はゴミ廃棄物などを用いた木質耐火壁組込工法
(以下省略)